7、8才の頃、夜に眠れなかった。
「UFOにさらわれたらどうしよう」
そう考え出すと一睡もできなかった。こうしてベットの中にうずくまっているあいだにも、背後では頭のとがった宇宙人が横一列にならび、黄色く光る目で僕を見下ろしているかもしれない。
部屋のどこかでミシリとかすかな音がするたび、僕は恐怖で飛び起きた。飛び起きるならまだいいほうで、時には身体を動かすこともできないままシーツの下で震えていた。
僕はアメリカに住んでいた。それもかなりの田舎だった。10分も歩けば町並はとぎれ、森と牧場が地平線の向こうまでひろがっていた。
そのせいか、奇妙な話がいっぱいころがっていた。隣の州ではビッグフットが出現したという噂があり、車で1時間ほど走った地域ではUFOの目撃談があった。牧場ではときどき血液が抜き取られた牛の怪死体がみつかった。
だから「UFOにさらわれる」という事態は、子どもの僕にとっては非常にリアリティのある恐怖だった。ライフルで撃たれるとか強盗に逢うとか、そんなことよりもずっと生々しかった。
ある夏の夜、例によって僕は眠れないでいた。宇宙人が襲ってきたときの防御策をただモンモンと考えていた。手には子供用のプラスチックバットを固く握りしめていた。しかし宇宙人にそんな武器が通用するだろうか?
ふと耳をすますと窓の外の暗闇、遠くで奇妙な音が聞こえた。
ヒュイ……ヒュイ……。
あれはなんだ。まさかUFOではあるまいか。僕はますます怯えた。
あまりの恐怖のせいだろうか。僕は数分ばかりウトウトした。ふと目を開けて僕は小さく叫んだ。
窓の外が青白く光っている。きっと円盤が庭に着陸したのだ。あの奇妙な音はいつのまにかすぐそばまで近づいていた。ついに、ついに恐れていたことが来たのだ。
僕は覚悟を決めてベットから這い出した。震える足取りで窓に近づき、カーテンを一気に開けた。
町全体が青白い色に染まっていた。
来ていたのは夜明けだった。
「ヒュイ、ヒュイ」
見慣れない鳥がそう鳴きながら、僕の目の前を滑空していった。