サボテン君は砂漠を歩いていました。
水を求めて旅をしていたのです。
見渡す限りの砂、照りつける太陽、サボテン君は何日も何日も歩き続けました。砂丘をいくつも越え、30日目にようやく町が見えました。
サボテン君はさっそく雑貨屋に入りました。
「水をください」
「おっとあぶない」
店番をしていた楠木氏は飛びのきました。
「そんなにトゲだらけじゃ下手に金もうけとれねえや。他の客にも迷惑だ。金をそこに置いてとっとと出てってくれ」
サボテン君は楠木氏の対応にあっけにとられ、しょんぼりとして店を出ました。トボトボと歩いていると背後から声をかける人がいました。
「よお同郷人」
ふりかえるとそれはアロエ氏でした。
「こんな都会でサボテンとはめずらしいな」
「水を求めてやってきたんです」
「そうかい、たいそうなこった。でもそんな風体じゃみんなに嫌われるぜ」
サボテン君はアロエ氏につれられてエステサロンに行きました。ムダ毛よろしくムダトゲの処理をしてもらうためです。トゲを抜くのは激痛をともないました。でもアロエ君の「トゲは都会には似合わない」という言葉を信じてじっとガマンしました。
ツルツルになったサボテン君の肩にアロエ氏は手を回しました。
「さあ、さっぱりしたところでどこに行きたい? 水を求めてここにやってきたんだっけな」
ふたりはバーに行きました。サボテン君はこれでもかというほど水を飲みました。彼にとって水は貴重品でした。
ツルツルでかわいいと夜の街の女の子ら、スミレちゃんやお菊ちゃんやアヤメちゃんからもかわいがられました。気をよくしたサボテン君は夜な夜なバーへとくり出すようになり、最初は水、でも次第にエスカレートしてウイスキーにブランデー、ジン、酒におぼれるようになりました。
ある日、サボテン君はトゲを抜いたところがどす黒く変色していることに気がつきました。それはどんどん広がり、サボテン君は日に日に体調を崩していきました。水を飲みすぎたのがよくなかったのでしょう、根っこも腐りはじめ、ついにはベッドから一歩も起き上がれなくなってしまいました。
サボテン君は病の床でふるさとをなつかしく思い出しました。僕の居場所はやっぱり砂漠なんだ、太陽の照りつける乾いた砂漠で孤独に生きていくのが僕にはお似合いだったんだ。
サボテン君は真っ白い花を咲かせました。サボテン君は涙で目をうるませながら、見舞いにきたアロエ氏に言いました。
「僕が死んだら僕の種を砂漠にまいてください」
「わかった、オレにまかせろ。約束する」
「たのみます」
サボテン君は息をひきとりました。アロエ氏はサボテン君のことなどすぐに忘れてしまいました。
サボテン君は都会のはずれの人気のない墓地に埋葬されました。
やがて墓地の片隅に、誰にも知られることなく、サボテンの芽が芽生えました。
(2007/5/7)