線路下回転寿司

1.

裏町の回転寿司、カピカピの鉛色した握りが流れるのを見て考える。いつだってこうだ、うまいかもしれない、かすかな期待に抗えず手を伸ばしては裏切られ、 僕はいつだって食べ過ぎてしまうのだ。店を出たときにあるのはただ吐き気、まずい寿司を喰ったという感慨すらなく、ただ本能的生理的な吐き気。

そして僕の生活はつづく、陽は昇りまた沈み、一発、二発、三発、これでもかこれでもか、力石の重いパンチみたいに止むことを知らず、そして僕は自分が寿司屋のベルトコンベアの上を流れる幻影をみる。

酸っぱい香り、腐臭、ふやけ切った手、握られ産み落とされ、どこにもたどりつかないベルトの上、グルグルグルグル、いつしか身体は乾き果て、無間地獄から抜け出すことはすなわち死。

「でも人生なんてそんなもんだぜ」

寿司をほおばり、小汚いおっさんがうそぶく、自称パチプロ歴四十年、そんなおっさんが、いかにも言いそうな台詞。

2.

人身事故が発生しました、ただいま現場検証中です、上下線とも全面ストップしております、人だかり、詰め寄る乗客、半べそ顔で説明する駅員。肉片でも落ちてるんじゃないか、僕は足元を気にしながら高架をくぐり、回転寿司再び。

寿司を食いながら考える、人の命は地球より重い、誰かが言った、でもそんなことはあるはずもない。さっきすり抜けた人ごみ、顔、顔、顔、いらだ ち、怒り、あせり、誰もが迷惑顔、でも「悲しみ」の表情などひとつもなかった。事故、病死、殺人、自殺、戦争、1日何百万回も地球が消滅しているというの に、僕はトロサーモンが回ってこないことばかり気に病んでいる。そしてやっぱり今日も食べ過ぎてしまう。

店を出る、改札前、さっきまでの人だかり見る影もなく、人の流れ、スムーズな流れ、ネクタイしめた鉄火巻き、携帯片手にウニ、イクラ、アナゴ、疲れきったハマチ、トロサーモン。

ベルトコンベアをゆく。

3.

回転寿司、いつになく大繁盛で呆然、しかし機械というやつは気が利かない、自動ドア勝手に開いて入らざるを得ない。こちらへどうぞ、女子大生風バイトの店 員、指差したのはおっさんとおっさんの間わずか30センチ、まさかあんなすきまにすわれと言うのか、たしかに丸イスはあるのだが。肩をすぼめ斜め45度の 角度で身体をねじこみ、気をとりなおしてさあ食うぞ、まずはお茶だ、アガリだ、そしてはたと気づく。

お湯の蛇口自分の前になく、両脇のおっさんの前それぞれひとつずつあるのみ、おっさんの皿を押しのけてお湯を入れざるを得ない、はた迷惑、にらまれるか、いやしかし自分は悪くない、こんな中途半端なところにすわらせた店員が悪い。

ふとよみがえる、幼少の記憶、子どもの頃はあらゆるものに手が届かなかった、大人、親父にたのんでは代わりにとってもらうしかなかった。すると隣 にすわっているおっさん父親のように思えてくる、おとうさん手が届かないよ、低い目線で僕は言う、手が届かないよ、おとうさん代わりにお茶を入れてよ。

妄想終了。我に返れば隣のおっさん、自分と大して変わらぬ年だ。「すみません」僕は普通に断わると手を伸ばし、なんのことはない手は届くじゃないか、そして普通に、お茶を入れる。

(2006/11/2)