アナウンスの声に驚いて顔を上げ、僕は目覚める、文庫本の夢の世界。いつもの地下鉄、いつもの座席、でも英語のアナウンス、機会みたいな声、ここは日本じゃないのか。
僕は知っている、地下鉄の外国人向け案内、でもほんの一瞬異国のにおい、そのムードにひたっていたい。
あのサラリーマンはインド人、あのにいちゃんはヨルダン人、ロシア人の女子高生、キューバ人の母とベネズエラ人の赤ん坊。
電車を降りて空想ますますふくらみ、ホームレスは火星人、清掃婦は未来人、駅員はアンドロイド、地底人がビラを配る。
でも僕は落ち着いている、ここ数ヶ月なかったくらいに気持ちは穏やか、こんな異世界にひとりぼっち、なぜだろう、そして僕はもっともらしい理由を思いつく。
そもそもわかり合えない世界ならば、わかり合えない不安も存在しない。
階段を上りきる、濃緑色の空に浮かぶまんまる、UFO? でも僕はわかっている、なんのことはない、見慣れた、1ヶ月ぶりの満月。
(2006/11/22)