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北海道ヒッチハイク旅行記 |
第1日:大阪〜名古屋午前10時。大阪は枚方市の小さな喫茶店。 僕の姿をまじまじと見つめ、中西さんはつぶやいた。 「なんやそのカッコは。それがヒッチハイクする服装か?」 彼はTシャツに短パン姿だ。それに対して僕は長袖長ズボンに吊りベルトという、貧乏旅行をするにはあまりにもオシャレすぎるカッコをしている。特に理由はない。お決まりのヒッチハイクファッションにおさまるのが嫌だっただけだ。 でも荷物の量が格段にちがう。中西さんのリュックは僕の倍以上もある。鍋やガスコンロ、白米まで持っていくと言う。えらい本格的なやっちゃな……。僕は身軽になるため、荷物を最小限にとどめている。この戦略が吉と出るか凶と出るか。 そもそも、この旅を最初に思いついたのは中西さんだった。彼は僕よりふたつ年上で26歳。ニュージーランドを放浪した経験を持つ。おまけに少林寺拳法の有段者で、Tシャツから突き出た腕は筋肉隆々だ。反対に僕は救いがたい運動オンチ、でも旅へのあこがれだけは強い。 「ま、ええわ。じゃあ旅のルールを確認するで。北海道礼文島までヒッチハイク! フェリーは乗っていいけど、陸路は全部ヒッチハイクな! きっかり1週間後に礼文島で合流すること! 所持金は2万円! もちろんカードなんか持っていったらあかんぞ。わかったな!」
僕は精一杯よゆうの表情をつくってみせた。 ふたりで電車に乗り、琵琶湖南端の大津市まで行く。そこから先は別行動だ。中西さんは琵琶湖西岸を北上して、敦賀からフェリーに乗るつもりらしい。僕は名古屋に立ち寄ってから新潟に抜けるつもり。 「じゃ、1週間後に礼文島でなぁ!」 中西さんと別れ、僕は地図で見つけた高速のインターチェンジへ向けて歩き出した。そこで車をつかまえ、一気に名古屋まで行こうという計画だ。 午後1時。インターに通じる道路わきに立つ。僕は用意しておいたスケッチブックをひろげ、マジックで大きく『名古屋までのっけて』と書いて首からぶらさげる。なかなかいいアイデアだ。 10分がすぎ、20分がすぎた。 セミがうるさい。真夏の太陽が容赦なく照りつける。最初はカッコつけて親指を立て、ポーズをとったりしていたのだが、疲れるだけなのでやめる。車は多いが、みんな珍しい動物でも見るような顔をして通り過ぎていく。誰も停まろうとしない。まるでさらし者だ。『わたしはバカです』と書いた紙をぶらさげて立っているような錯覚をおぼえる。 ふと、だれかが僕を呼ぶ声がした。 「あんたこんなトコで何してんのん」 道の反対側にばあちゃんが立っていて、僕に手まねきをしている。 「ヒッチハイクです。名古屋までのっけてもらおうと思って」 親切なばあちゃんやなぁ。昼飯でもごちそうしてくれるんかいな。と思っていたら、いきなりこんなことを言い出した。 「わたしなー、煙草買いたいねんけどあいにく金がないねんなー」 ばあちゃんは満面の笑みを浮かべ、右手を突き出す。遠慮のカケラもない。僕は茫然自失となり、500円玉とばあちゃんの顔とを交互に見たが、 「いや、もーええわ、500円くらいあげるわぁ」 ばあちゃんは500円を握りしめ「うひゃひゃひゃひゃ」と笑いながら坂道を降りていった。ううむ、これが世に聞く『旅先で出会った人々との心のふれあい』ってやつか? 2時間ほど立ちつくしていただろうか。 「僕、昼からずーっとあそこに立ってたんですよ!」 僕は興奮して一方的にしゃべりまくった。噴水修理の仕事をしているという彼は、「へええ」ととまどった笑みを浮かべている。 でも10分ほど走ったところで、急に会話がなくなった。彼は口数が少なく、僕だってふだんは人見知りが激しく口下手だ。一気にしゃべったところで本来の性格に戻ってしまったのだ。あとはひたすら無言のふたりである。 5時すぎに名古屋市内に入った。どこで降ろしてほしいかと聞くので「名古屋で一番栄えているところ」と答えると、ビジネス街の大きなテレビ塔の下で降ろしてくれた。 とにかく今夜の寝床を探さなくちゃならない。テントを張れる場所を探すのだ。しかし公園をのぞき込むとそこには必ず先客がいた。ホームレスが至るところに住みついている。 市内を歩きまわったすえ、名古屋城に接する大きな公園にたどりつく。ホームレスも少ない。まだ8時半だったが、僕は遊歩道わきの木陰に分け入ると、テントを張ってもぐりこんだ。 |
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