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北海道ヒッチハイク旅行記

第4日:新潟県直江津

 朝。JR名古屋駅の雑踏の中、僕はリュックをかついで突っ立っていた。

 胃がむしょうに痛かった。きのうほとんど何も食べていなかった僕は、朝一番にコンビニでおにぎりとサンドイッチを買い、ジュースで流しこんだ。それがいけなかったのか? ひょっとして食中毒か何かか?

  でもかまってなんかいられない。気持ちはもう新潟県に飛んでいる。いまから電車に乗れば、夕方には日本海側にぬけて新潟県直江津に出るはずだ。

 そう、僕は電車に乗ろうとしていた。ルール違反は百も承知だった。『フェリー以外はヒッチハイクだけで北海道礼文島まで行かなければならない』。中西さんと交わした約束だ。

 でも、名古屋でもう2日以上も足止めを食らっている。それに自信がなかった。果たしてヒッチハイクの車をつかまえられるかどうか。運良くヒッチハイクできたとしても、果たして新潟まで何日かかるだろうか?

 ルールをひとつ破って北海道礼文島まで行くか。あるいはルールを破らずにこのまま尻尾を巻いて大阪に逃げ帰るか。弱気になり始めていた僕はそこまで考えた。そして僕は、迷わず前者を選択したのである。

 乗車券を買い、9時10分発の中津川ゆき普通電車に乗りこむ。

 なにはともあれ、ようやく名古屋とサヨナラできるのだ。そう思うとうれしかった。

 中津川に着くと、12時発の松本ゆき普通電車をホームで1時間半待つ。

 松本駅のホームで今度は長野ゆきの普通電車を待つ。

 長野に着いたら信越本線に乗り換えて、ようやく新潟県直江津へと向かう。

 地元のサラリーマンや制服の学生たちといっしょに電車の箱の中に押し込められて、何時間もガタゴトガタゴト……。

 やたらと乗り換えが多い。ちょっと乗っただけで終点になり、次の電車を待たなければならない。そして、都会を離れれば離れるほど電車の本数は少なくなった。ホームで1時間待つことなんてザラだ。

 でもヒッチハイクすることを考えたら気分的に楽だ。待っていれば必ず電車は来る。そして必ず目的地まで運んでくれる。ヒッチハイクしていたら僕はいまごろどこにいるだろう。長野県の片田舎で降ろされて途方に暮れているかもしれない。

 ふと、2年前の夏を思い出す。2年前、僕は大阪から普通電車を乗り継いでやっぱり北海道まで旅をした。今回と同じようにテントをかついで。その時もかなり苦労したが、電車に乗っているという妙な安心感があった。電車に乗っている限り必ず目的地につく。でもそれが逆に物足りなくもあった。今回はもっと自由な旅がしたくて、ヒッチハイク旅行に出た。それなのに僕はまた電車に乗っている……。ちょっと気を許すと自嘲的な気分になってしまう。

 たいくつはしない。大阪を出るとき、僕は中西さんから1冊の本をもらった。司馬遼太郎の『人斬り以蔵』。幕末ものの短編集だ。北海道旅行と幕末もの。なんてミスマッチなんだろう。でも面白い。暇さえあればずっと読んでいる。

 夕方5時。ようやく直江津に到着。

 何もない田舎町だ。でもここの港からはフェリーが出ているはずだ。北海道岩内ゆきのフェリーである。僕は海沿いの道をひたすら歩いた。

 何気なくふり返ると、殺風景な一本道を誰かが歩いてくる。馬鹿でかいリュックをかついだ男だ。勇気を出して話しかけてみる。関西外大の学生で、家を出てからきょうで10日目、これからさらに新潟市まで行くという。

「それじゃがんばって」

 彼はそう言い残すと、僕を追い越して先へと歩いて行ってしまった。これも一応『旅先での出会い』と呼べるんだろうか。僕は出発してからずっと、何らかの『出会い』を求めてきた感がある。しかしどれも空振りというか期待はずれに終わってしまうのは、僕のほうに原因があるのだろうか。

 フェリーターミナルにつく。午後11時30分発のチケットをとろうとするが、キャンセル待ち29番目だ。しかたなく、2階のベンチにすわって順番を待つことにする。

 きゅうに疲れがドッと出てくる。

 なんだか体調が悪い。胃も痛い。なぜだ? テント生活が続いて寝不足でもある。ベンチにすわっていることすら苦痛だ。早く横になりたい。それに船旅は初めてだ。不安もある。そなえつけのテレビがくだらない番組をえんえんと流し続けている。見ているだけで精神的にこたえる。旅に出て以来、ちょっとずつだが気持ちが萎えていっているようだ。

 11時。キャンセル待ちの受付がはじまる。僕は29番目。はたして乗れるだろうか? 

 ジリジリと待つこと1時間、やっと番号が呼ばれる。

 僕は大喜びでチケットをもらった。さっきまでの体調不良も一瞬にして治ってしまった。現金なやつだ。我ながらそう思う。

 船の出航が遅れている。12時を回り、僕はようやくフェリーに乗り込むことができた。上部デッキに出ると、真っ暗闇の中で強風が吹いている。はるか下に見えるターミナルビルには、下船した客、見送りの人、急いで乗りこもうとしている客、キャンセル待ちに漏れてしまって途方に暮れている人たちの姿がシルエットになって見える。

 「ざまあみろ」

 僕は意味もなくそうつぶやいた。

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