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北海道ヒッチハイク旅行記 |
エピローグ9月になっていた。 ヒッチハイクの旅を終えてからちょうど1カ月がすぎようとしていた。ひさしぶりにいっしょに遊びにいこうということになり、大阪・梅田の小さな喫茶店で僕は1カ月ぶりにユミちゃんと会った。 ユミちゃんは窓際の席にすわっていた。うつむきかげんで、氷の溶けたアイスコーヒーをじっと見つめていた。何かにおびえているような表情だった。僕はその理由を計りかねた。彼女はしばらく黙っていたが、ようやく思い切ったように顔を上げ、僕をまっすぐに見つめた。目が少しうるんでいた。 「あんなー。あたしの友達、自殺してん……」 ユミちゃんの話はこうだった。 彼女とは特に仲がいい友達というわけではなかったが、小学校から高校までずっと同級生だった。明るく活発で、いつでもクラスのリーダー的存在だった。20歳になった頃、ユミちゃんと同じようにいなかを出て都会で働いていたらしい。その後も、いなかの同窓会では毎年顔をあわせていた。 「でもここ数年、なんだか人が変わったみたいになってて……なんかすんごく無口なコになってしまってん。それであたし気になっててんけど……」
ユミちゃんはまるで僕を問いつめるような口調になっていた。 「なぁ、自殺しようって気持ち、理解できる? あたしにはわからへん。自殺しなきゃいけないほどツライことって、この世にあると思う?」 こういう時、僕はなんて言えばいいのだろう。こんな話を聞かされるのは僕にとってもショックだった。 「いや、あるのかもしれんで」 僕は答えた。そして言うべきかどうか迷った末、 「俺は……死にたいやつは勝手に死ねばいい、って思うよ」 由美ちゃんは驚いたような目をした。僕は続けた。 「でもな、こっからが大事やねんけど。本当に死にたいと思って自殺する人なんか、ひとりもいないんとちがう? 自殺する人も心の底では、生きたいって思ってるはずやねん。普通に生きてる人以上に、生きたい生きたいって願ってると思うねん」
由美ちゃんはしばらく目をふせていたが、 「あんなー、たとえばの話やけど」 顔をあげて僕を見た。 「万が一やで? あたしは絶対にそうならないと思うけど、もしもあたしが……もしもあたしが死にたいって思ったときにはどうしたらいい?」 そしてその日を最後に、ユミちゃんの消息はプッツリととだえた。 10月に会社をやめるという話は聞いていた。だから時間をもてあましているんじゃないかと思ったのだが、電話に出ないのだ。昼夜かまわず何十回と電話をかけてみたが、いつも『ただいま留守にしています』という彼女の録音の声がむなしく流れるだけだ。 あんな話をした直後だ。悪い予感がした。まさかそんなことはないだろう。あのコに限ってそんなことはあり得ない。でもひょっとしたら。あの時僕が彼女に言ったこと、あれはあれで良かったんだろうか。それとも、言ってはならないことを言ってしまったんだろうか。 毎日、落ちつきなく暮らした。いっそ彼女のマンションに行って確かめようと思ったが、場所がわからない。 なんとか冷静さを取り戻した僕は、ふと思い出した。 そういえば……。 そういえば、東京に住んでいるおばが最近入院したとか言っていた。そしてたしか、おばの身のまわりの世話をするために、そのうち東京に行くかもしれないって言ってたような気がする……。 彼女が気まぐれなのはわかっているつもりだった。でも、東京に行くなら行くで、一言ぐらい言ってくれてもよさそうなものだ。 信じられなかった。すると今度は腹がたってきた。そのあとも僕はしつこく電話をかけ続けた。しかしついに、ユミちゃんと話すことはできなかった。11月になった。僕はついにあきらめた。電話をするのもやめてしまった。 年が明けた。 東京からの年賀状……。 ユミちゃんからだった。 『お元気ですか? 私はいま東京にいます』 クセのある文字で、年賀状にはそう書いてあった。 そしてカラフルな富士山の版画の横に、小さな文字でこうつけ加えてあった。 『いま住んでるアパートから富士山がみえる』 そういえばユミちゃんは、空を見るのが好きだった。 東京のマンションのベランダから、はるか遠くの富士山に映る空の色を見て、きっとひとりではしゃいでるんだろう。 ま、あのコらしいといえばあのコらしい……な。
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